八、新夫婦の初枕は餅を搗いた杵

祝言の際に餅を搗く習俗も、かなり広く行はれてゐる。

岩手県上閉伊郡の村々では、花嫁が婚家へ着いたのを合図に、戸口の左右で餅を搗き始ある。嫁はその臼の間を通りぬけて、勝手口から座敷へ昇ることになつてゐる。

福島県相馬郡地方でも、花嫁の到着と共に、婿の家で餅搗きするのは他地方と変らぬが、変つてゐるのは、新婚の夫婦はその餅搗杵を初枕とすることである。昔は婚礼に参列した女達は、杵を持つて裸踊りをしたものである。

更に同県の中部地方の村々では、三々九度の盃が済み、新夫婦が寝所に入ると台所に臼を据え、若者達が調子を揃えて卑猥な文句を歌いながら餅を搗く。やがて婦人が出て来て「搗けました」と言うと、お目出たうと答えて餅を女達に渡す式がある。

そして此の媒人の口上が、他地方の「一こく、二こく、三国一の、婿とり済ました」と、手拍子を打つのと同じく、滞りなく床入を終ったと云う挨拶であることは言うまでもない。

同県の会津地方では、婚礼の夜に、嫁方と婿方との挨拶が始まると、手伝の者が台所で空臼を叩いて囃し立てる。これは双方の挨拶に失言などがあつても、大騒ぎのたあに聴きとれぬやうに仕組んだものと云ってゐるが、恐らく古くは餅を搗いて祝つたが、その形式だけ残るやうになつたので、後から理窟を附会したものであらう。

石川県の町や村では、花嫁は家の裏口から入るものと定まつてゐるが、その入口の左右に臼を据ゑ、嫁が通るとき餅を搗く。これを「おちつき」と云ひ、先づ嫁入の馳走とする。それから花嫁が実家から持つて来た水と、婿の家の水とを和して飲んでから盃事になる。

まだ此の外にも、婚礼に餅を搗く所は各地にあるが、その理由は私が改あて説明するまでもなく、 ××××見立て、××××見立て、××××見立て、×××××××うに子孫繁昌の行為を営あとの祝儀に由来したものである。