愛慾三千年史

『愛慾三千年史』(著者:中山太郎)(国立国会図書館デジタルコレクション永続識別子:info:ndljp/pid/1460486)の全文テキストアーカイブです。

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巻頭小言(自序)

  • 他から見たら反古にしか過ぎぬが、それでも私には少からぬ執着がある。敢て文章の千古の事などと、大束をきめる次第ではないが、その一字一句に自分の生命が刻み込まれてゐる事を思ふとき、棄つるに忍びぬものが存するのである。
  • だが、旧稿を蒐めて一書とする際に、誰でも感ずる事は、その総てが意に満たぬと云ふ点である。材料の取扱ひ方に就いても、推論の方法、表現等に関しても、今ならばと考へる事が尠くない。けれども、今それを改めても、他日また不満になる事は疑ひない。何となれば我々の希ふものは絶えざる進歩であるためである。それで私は一応旧稿をそのまま一書として世に送り、過去を振り返つて見るよすがとしたい。依つて改訂せず、加筆せず、記事の終りに掲載した雑名を附記して、その出所と年代を明白にした。
  • 併し、斯うして一書に編んで見ると、掲載した雑誌が異り、発表した年時も異つてゐるので、知らず識らずのうちに、同じき材料を再出し、三出してゐる場合がある。これは私として、如何にも心苦しき事ではあるが、今それを省くとすれば改訂せねばならぬので、やはり元の儘にして置いた。此の点は切に読者の寛恕を望む所である。これを以て自序に換へる。

昭和十年七月

本郷弓町の書屋に於て

中山太郎 識

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