二三、時勢を示す心中の新方法

明治になつてから、その時世相を証示する幾多の新しい心中の方法が発明された。鉄道心中、華厳瀧の飛び降り心中、ダイナマイ卜心中、モルヒネ心中、浅間山の噴火口心中などを始めとして、かな り奇披なものが段々に新聞紙上を賑してゐる。此の分で進んだならば飛行機飛び降り心中、電気心中、自動車心中などの出現する時代も遠くないやうに思はれる。我国の心中史も多々益々珍しい資料 が加はることであらうが、余りぞつとした話でないので、今は擱筆するとする。

最後に私の心中観は、両者の意志の合致と、恋愛関係とが心中の要件だと考へてゐるので、無理心中や親子心中は、心中の文字の濫用であつて、私の所謂心中に入らぬものゆゑ、総てを有略した。