六、心中は端女郎に多い

貞亨二年、粋法師西鶴の書いた好色一代男によると、近年心中が非常に流行し、大阪の新町だけでも久代屋の紅井、紙屋の雲井、京屋の初之丞、天王寺屋の高松、和泉屋の喜内、伏見屋の久米之介、 住吉屋の初世、小倉屋の右京、柏屋の佐保野、大和屋の市之丞、新屋の靱負、丹波屋の瀬川、野間屋の春弥の十三人が挙げてある。

そこで心中の死因を分けて、「義理にあらず、情にあらず、皆不自由より無常に基き、是非の差詰にてかくはなれり、その例しには、残らず端女郎の仕業なり、男も名代の者は、譬へ恋はすがるとても 為ぬ事ぞがし」と云うてある。

実に西鶴の言の知く、江戸初期の心中は、男女ともに身分の軽い者が、金に詰つての自暴自棄が九分までを占めてゐたのである。