七、天女に恋した山伏の話

天女の木像や、美人の姿絵に恋する変態者も、また決して尠くないのである。

古い話では和泉国の山伏が、血停寺の天女の木像を拝して恋暮し、日夜ともに思ひを焦してゐると、蟻の想ひも天へとどく譬の如く、或る夜この天女が、山伏と夫婦の語らひをした。山伏も驚いて、翌朝天女の像を見ると、×××××××××××××××××××と云ふことである。然しかうした話は、今でも各地に存してゐて、新聞の三面種として往々報道されることがある。

五六年前のことだが、東京の木薬屋の番頭が、或る呉服店の陳列窓に飾つてあつた人形に恋暮し、往来の途絶える夜更になると、その人形の前で××××××××、警察署に引致されたといふ記事を読んだことがある。

これなども前の山伏と同じく、一種の変態者なのである。よく演劇でやる僧清玄が、桜姫の絵像に悶々の情を訴へるところや、更に八重垣姫が勝頼の絵姿に対して、恋々の想ひを述ベたことなども、亦この種の一例として見ることが出来るのである。