兵庫県三原郡地方頭村に八幡社がある。昔は毎年、旧八月十二十三の両日に角力があつたが、俗にこれを泣宮の角力と云ひ、また泣き祭とも云うてゐる。
伝説によると、此の八幡神は頭が禿げてゐるので、祭日に参詣人の来るのを恥ぢて泣きたまふゆゑ、かく称するのだと云うてゐる。禿頭の神様とは、かなり奇抜な神様である。静岡県磐田郡袋井町に近 い芝村に、泣き祭と云はれてゐる八幡社がある。例祭は九月十五日であるが、此の日は必ず雨が降つて露店商人や参詣人が泣くので、かかる俚称を負ふやうになつた。
和歌山県日高郡丹生村大宇和佐に、笑ひ祭と云ふがある。此の氏神は女性であらせられたが、或る年、出雲の大社から至急に召集され、女神は大急ぎで雲に乗り、出雲へ飛んで往かうとして、社頭の銀杏の樹に湯巻を引つ掛けたが、それを取つて締め直す間がないので、丸裸のまま飛び徃き、諸神に大いに笑はれたが、それ以来この笑ひ祭を行ふやうになり、近頃まで縁日に氏子が集り、大笑ひする のが儀式になつてゐたとは不思議な祭である。
兵庫県武庫郡鳴尾村小松の岡太神社は、祭の日には社前を通る者は、前をはだけるのを習ひとしたので、「おかしの宮」と云うたとあるが、これも一種の笑ひ祭である。千葉市の千葉笑ひは祭ではあ るが、内容が異つてゐるので、これは他の祭と一緒に述べるとする。