我国の婚姻の種々相を、歴史的に眺めると共同婚(部落内の男女が、誰彼なしに乱婚するもの)から掠奪婚(男子が腕力を以て女子を掠奪するもの、即ちここに言ふ嫁盗み)を経て、売買婚(金銭または物品で女子を買ふもの)から、現に行はれてゐる契約婚にまで発達したのである。そして更にこれを形態的に見ると、定期婚(或る期間だけ性的生活を送る結婚)、試験婚(男女双方が互ひに幾年間か試験し合つた後に結婚するもの)、逓次婚(姉が死ぬと妹を妻にするもの)、逆縁婚(兄が死ぬと弟が、その嫂を妻とするもの)、待孕婚(女の姙娠によつて結婚の完成するもの)を主なるものとして、此の外に一夫多妻婚、多妻一夫婚、労働婚、交換婚などを数へる事が出来るのである。私は是等のうちから、今に各地方に行はれてゐる嫁盜みの民俗に就いて記述し、性に対する人間の根強さを考へて見たいと思ふ。