八、龍紳に貸した不思議な名刀

新潟県刈羽郡鵜川村大字女谷の奥の山中に板山の池と云ふがある。土地の者は、いくら風が吹いても、此の池には木の葉一つ落ちぬとか、又は池の主―即ち龍に見込まれた者は、自づと落ちて沈むとか、雨を祈ると必ず降るとか、種々な事を云つてゐる。それに此の池でも古くは膳椀を貸したと云はれてゐる。

それよりも一段と不思議なのは、昔、女谷の布施徳兵衛と云ふ者の夢枕に、此の池の主の龍が現はれて、近いうちに信州野尻の池の龍と戦争することになつたから、刀を一本貸してもらひたい、承知だつたら屋根の上に出して置いてくれとの頼みであつた。それで頼みのやうに出して置くと、いつの間にか見えなくなつてしまつた。そして板山の龍が此の刀で野尻の龍と戦つた証拠には、野尻の池は血で真赤になつたさうだ。刀は軈て又屋根の上に置いてあつたが、見ると所々に刄こぼれがあつた。布施家には今でも此の刀を秘蔵してゐて、極まつた日だけ一般に見せると云ふことである。