三、長さ十六丈五尺ある女の毛

今から三百年ばかり前の慶長年間に、群馬県多野郡上野村大字新羽を流れる神流川の橋杭に、怪しい長い毛が漂着した。村民達がこれを見つけ熊手や長竿を持出し、漸くのことで拾ひあげて調べると、毛の長さが三十三尋余(十六丈五尺)あり、その色は黒くして艶があり、何の毛やら村民には分らぬので、種々と相談しだ結果、そのままにも棄て置けぬとて、名高き巫女を呼んで占はせたところ、此の毛は同村大字栗沢の野栗権現の流した○毛だと云ふことであつた。これで新羽村では此の長い毛を、村の産土神の宝物として保存することとなり、今でも毎年陰暦六月十五日の祭礼には、神輿の後に此の長い毛を入れた筥を捧げ持ち、そして村中を巡行すると云ふことである。

長い毛を御神体とし、又は神社の宝物とした事は、此外にも沢山あつて、これを七難の揃毛と云うてるた。近く東京市に編入された千往在の舍人村にも、昔は毛長明神とて長い毛を神体とした神社があり、箱根権現にも戸隠権現にも七難の揃毛があつたと伝へられてゐる。然るに是等は明治期になつて無くなつてしまつたのに、独り新羽神社だけに残つてゐるとは珍としなければならぬ。