伝説名宝考

各地に保存されてゐる伝説つきの宝物には、到底、常議では想像も出来ぬやうな奇抜なものが多い。長野県木曽寝覚の浦島神社には、浦島が龍宮へ往くとき亀の背に乗り、肩にしたと云ふ釣竿がある。群馬県の妙義神社には、百合若大臣が大岩を射抜いたときに用ゐたと云ふ鉄弓がある。岩手県の中尊寺には武蔵坊弁慶が五條の橋で千人斬りに用ゐたと云ふ薙刀がある。

更に一段と奇抜なものになると、同寺には源義経が牛若丸時代に、鞍馬山で剣術修業の相手をしたと云ふ烏天狗の嘴があり、鎌倉の八幡宮には、昔は五十三歳で死んだ源頼朝の、十三歳の折の髑髏だと云ふのがあつた。此の外に龍の麟とか馬の角とか云ふものはザラにある。斯うなると宝物の由来はナンセンスとしても面白いものだが、ここに各地に渉り興味の深いものを想ひ出すままに記述し、最後にどうして斯うした奇抜な宝物が造られたか、その種明しを述べるとする。