徳川初代の将軍家康は、真個の家康では無くして、乞食であつた願人坊主が中途から換玉になつたのだの云ふ説がある。此の説の真偽は暫らく預るとするも、その血筋を承けた代々の将軍が、家康と同じく極端なる淫蕩者であつたのは事実だ。考へやうによつては家康の素性が、願人坊主の帳外者であつたかを偲ばせる手掛りになる。
徳川大奥の秘史は、十五代二百八十年の長きに渉つてゐるので、簡単には書き尽されぬが、ここには其の主なる事だけを摘説する。
(講談雑誌一六ノ六)