千秋万歳と、千代を寿く目出たい婚礼の儀式を、聞くも忌しい葬礼に擬らへて行ふ奇俗が各地に存してゐる。
秋田県の各村々では、嫁入を新仏の野送りの如く白張提灯を幾つも立てて行くのが習ひとなつてゐる。兵庫県加東郡の町村では花嫁が実家の両親と別れの盃を済せ、門を出ると、一把の藁で座敷を掃き清め後に是を焚く─門火と称し葬礼に真似るのである。
岐阜県太田町でも、新婦が家を出て行く時戸口で藁の門火を燃し、更に蓆一枚を竹と木の枝で打ちたたく。これも葬礼と同じで、一度出たら再び帰らぬ意味だと云つてゐる。
長野県佐久郡では、新婦が新郎の家に着き、媒人の女房に伴はれて勝手口(玄関からは決して入らぬ)に到ると、ここに幼き男女が麻殼で作つた松明を持ち、左右に立つてゐる。新婦はその間を通つて家に昇らうとすると、家婢が冷水一碗を持つて来る。
新婦はそれを飲んでから、設けの席に着き式を挙げる。これは凶礼に擬したものだ。
岡山市では結婚式に、花嫁の前へ鼻つき飯(土地により高盛とも云ふ)とて、椀に高々と飯を盛りあげ、その上に箸を直立させて出す。これは死人に供へる散飯と同じものである。そして之に似たことは他の地方にも行はれてゐる。