一四、常識で解されぬ雑魚寝

神戸市湊部駒ヶ林村に、雑魚寝堂といふのがあるが寺ではない。

昔は此の村の未婚の男女が、毎年節分の夜に此の堂に集り雑魚寝したので、斯く称したのである。

そして、その夜に契つた男女は必ず夫婦になる掟となつてゐたが、暗中に摺り合ふこととて、若い男と老いた女と、又は此の反対に、若い女が老いた男と夫婦になることは、如何に氏神様の思召とは言ひ人情にもとると云ふので、いつか雑魚寝は廃されてしまつて堂だけが残つたのである。

私も明治四十三年頃、大阪に居た折に、此の堂を見に往つたことがあるが、その頃は土地の者は枕寺と呼んでゐて堂には在りし昔の、雑魚寝に用ゐたという枕が七八十ばかり積んであつた。

新潟県岩船郡の栗生島は、日本海の一孤島であるが、此の島には古くから今にお籠りと称して、女ばかりで雑魚寝する風俗がある。

それは別段に定まつた日があるのではなく、亭主たちが漁に出かけると云つては、その漁が豊富であつたと云つては、更に海が荒れると云つては、女房連や娘達が島の鎮守社に集つて、酒を飲み飯を 食ひ、一夜を女同士で丸寝するのだ。

警察署や島司から、風俗上よろしくないと度々禁令を出すが、島の女達にとつては唯一の歓楽の殿堂であるとて依然として行はれてゐる。

恐らく同性愛であらうと思ふ。