七、迷信から行はれた棄児

我国では、父親が四十二の年に生れた子は、一度棄子して他人に拾ってもらひ、それを貰ひうけて養育せぬと、早死にすると云ふ迷信があつた。

これは、四二が死にの国音に通ずる所から由来してゐるのである。そして、此の迷信は独り農民の間ばかりでなく、身分の高い者にも行はれたのである。徳川三代の将軍家光が大手先に棄てられ、松将監に拾はれた話などは殊に有名である。

これも拾ひ人を定めて置いての棄子なれば犯罪にはならぬが、若しさうでなければ立派な犯罪となる。数多い昔の棄子には迷信の強かつただけに、かうした罪人も皆無だとは考へられぬ。