六、屍体の指を切り取って売る

古い俚謡に、「親に貰つた五本の指を、四本半には誰がした」と云ふのがある。これは小指の半分を、心中立に男に贈つたことを云つたものである。

そして此の指切りは、髪切りと共に昔から行はれたものであるが、これだけならば犯罪と云ふほどのことでもないとしても、更に一歩をすすめると誠に恐ろしいことになるのである。

西鶴の「一代男」に信州の某村で墓地を発いて、屍骸の指を切つてゐる男があるので、何の用にするのかと訊くと、京大阪の遊女が客へ小指を遣るのに、一々切つたのでは堪らぬので、此の指を買込んで置いて、代用するために同地方から註文があるのだ─と答へたと、載せてある。指切の始めは誓ひの迷信から出たもので、後に心中立となつたのであるが、かうなれば立派な犯罪となるのである。