性的の病気に、他人の生血を飲むと効験があると信じてこれを行ふ者もある─と、耳にしてゐる。清水浜臣の「遊京漫録」に載せた「白髪畑の怪」と云ふのは、或ひはかうしたことに原因してゐるのかも知れぬ。
それは白髪の山男が二十になる村長の娘を掠め奪り、その生血を飲むのであるが、浜臣はその惨状を叙して、「胸先に口さし当つるやうに見えしに、女あッと一声叫びてのけざまに反るを、動かしもあへず血を吸ふ、手足をわななかして泣き叫ぶ声いと悲し。(中略)やうやう血を吸ふにつけて、弱りゆく声かすかなり」と、記してゐる。
肺病に鼈の生血が利くとか、病後の衰弱には豚の生血が良いとか云はれて今に行はれ、且つ最近で、輸血法と称する医療術さへ発明されてゐるのであるから、これは必ずしも迷信ではないかも知れぬ が、性病に血の効能があらうとも考へられぬので、茲に併せ記した。