中国のトウベウと称する憑き物は、伯耆の奥山にもあれば、備中の海岸にもある。
併しこれは狐ではなくして、首のところに、金色の細い環のやうな筋がある小蛇だと云はれてゐる。
安芸国では蛇神と呼んでゐるが、多分同じものだと考へる。
この弊害にあつては、オサキ狐や犬神と異るところがなく、人に嫌はれたり疎まれたりする点は、全く同じやうである。
まだ此の外に、肥後の阿蘚谷のインガメ、紀州の猿神など云ふものがあるも、大抵は似たり寄つたりのものであるから省略する。
そして以上の憑き物なるものは、全く巫女の徒が商売を繁昌させるために工夫した曲事なのである。よく昔の人はオサキ狐を見たとか、犬神を生捕にしたとか云つてゐるけれども、元々これ等の動物は、巫女の宜伝によつて生じた思想上の動物であるから、実在すべき筈は無いのである。
オサキ狐は七十五匹が一組で、戸棚の中に飼つて置き、食物を与へるときには、飯匙でお鉢のふちを叩くと出て来るなどと、真のやうに話す人もあるが、これこそ巫女が工夫(或は修験道の影響も受けたものとも思ふ)した迷信なのである。
その証拠には、明治に巫女が禁止され、文化が発達すると同時に、これ等の憑き物が段々と影が薄くなつたのでも知れるのである。