愛知県北設楽郡の村々に行はれる神楽(霜月舞とも云ふ)は、七日七夜も続く大仕掛の秋祭であるが、昔は第三日目の午後四時頃になると、各四五人づつの踊手が四方に立つて、門〆といふ天狗打ちの業を七回づつ行ふ。それが済むと丁度日暮になるが、その頃は舞土(踊の庭)は男女混淆の見物で一杯になる。そこへ鬼に扮した者が四五十人も一時に出て来て、舞ふやら踊るやらする。酒気を帯びた見物の若者達は、すつかりお祭り気分になつて鬼を賞めるやら、鬼と一緒に踊るやら、舞土は鬼と見物とで寸隙もなく混乱を極める。さうしてゐるうちに見物人が「鬼が出たつびをしよ、注連より外で、注連より外で、鬼が出たつびをしよ、注連より外で、てんつく舞うた」と一斉に囃すと、此の混雑のうちで見物の男女は、既婚も未婚も相手を物色しては、附近の家の軒下や或は山に赴き、木の根を枕として氏子繁昌のお祭をするのであつた。各地に残つてゐる木ノ根祭や芽ッ切祭と云ふのは、皆これに類した性の行事を伴うてゐるのであるが、余りに露骨であるだけに、茲に記述する自由を有せぬことを遺憾とする。
群馬県多野郡平井村字西平井の三嶋神社の例祭は十一月十五日に行はれるが、此の祭には変つた神輿の渡御がある。即ち神輿は氏子でも他村の者ても、心願ある者は誰でも舁くことが出来るが、それ等の人々は縁談、商売、訴訟、養蚕、豊作などの祈願をかけるときに「私は神輿を上へ揚げますから、願を叶へてください」と頼む者と、これに反して「私は神輿を下へさげますから、願ひを聴いてください」と祈る者とがあり、それが一緒になつて元宮がら里宮まで、十八丁の闇を舁くのであるから、上げようとする者、下げようとする者で揉みぬくのである。そして此の夜には男女の関係が殆ど公然と行われてゐたが、何れも対手を得れば繭(前の訛り)が当るといふ縁喜から来てゐたのである。